これからの日本の製造業はどのようなアーキテクチャであるべきだろう?いくつかの選択肢があると思う。
- 日本のよさを活かせる産業に絞り、母性原理のよさを生かしたすり合わせ(インテグラル)型でいく
- もはやグローバルな基準である父性原理は避けられない。欧米の精神・やり方を根本から日本に導入する
1は、第11回 「シンプルだった技術の未来予測」で言うところの” 一次元の善の方向”が見えているような産業には合うと思われる。例えば、体積あたりの容量は大きいほどいい電池、効率がいいほど善な省エネルギー関連、等々、ほかにもデバイス・素材系、省エネルギー系にはすり合わせ(インテグラル)型がフィットする産業はまだまだあると思われる。ただ、未来永劫、日本人が不得意と思われる複雑なシステムの産業から逃げてばかりはいられない。『第12回 日本人を知る必要性』で「目の前が危機的状況なのに、現実を把握しようとせず、このような次元で甘えているうちに勝負に敗れるのが、「失敗の本質」に描かれている日本の典型的負けパターンなのだ。」と書いたが、短期的な楽観論は命取りである。日本のエートスを形成してきた当の農業ですら、グローバルな競争や近代化にさらされる時代なのだ。
2はもっと困難が付きまとうだろう。実際、歴史的・精神的な背景も考慮せずに中途半端に欧米型を取り込んで失敗している企業改革の事例が多いのではないかと思う。②を真剣にやるのであれば日本の隅々まで行き渡っている平等の価値観の転換を家庭・学校双方の「教育」からやらなければならない。要するに大変時間のかかる話である。
ではどうすればいいのか?日本人の労働にとって必要なのは「枠」、つまり役割の設定である。このとき重要になっていくるのが「枠」自体の設計だ。戦後の成長期はこれを官庁から指示されて推進してきた経緯があるのだが、現代ではこのやり方を取る限りスピード感が得られないため、失敗する確率が上がってしまう。
筆者の提案は、「枠」の内部を内向きに進める機能と、「枠」そのものの設計を行う機能の組み合わせ、つまり母性原理と父性原理のハイブリッドな組織、分業体制を意図的に製造業企業の内部に作る、というものである。
「枠」の内部を“耕す”メンバーは日本の強みを活かした内向きイノベーションのままでいい。構成員は年功序列で終身雇用がベターだ。「枠」の設計者が許す限り、垂直に掘っていく進化を続けていけばよい。
「枠」自体の設計は“外部環境”を正確に読み、世の中のトレンドと近い未来を予測し、システム全体を考え、的確な「枠」を決定する外向きイノベーションの能力が必要である。それだけのことができるという高いスキルが必要な上、枠設計がそもそも間違っていたときは取り返しがつかないという重い責任がある。また、「枠」設計はあくまで枠を規定することが必要で、中身まで制約しないようにすることが肝心である。
このアーキテクチャには課題ももちろんある。マネージメントから見ると「枠」内部が見えにくいという点は過去の日本の内向きイノベーションと変わらないからである。例えば、内部がわからないため、整理対象になりやすいといったリスクがある。これでは元も子もない。この問題に対応するために、内向き文化と外向き文化をうまくコミュニケートする“通訳”が必要であると思われる。この通訳役は双方から信頼されていることが必要な大事な役割なのだ。
さて、この「枠」の設計者、どのような人がなるべきなのか?信長のようなスーパーマンの出現を期待しなければならないのか?これを次回に書こうと思う。
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