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前回に書いた二層構造の上位層である「枠」の設計者は世の中のトレンドがよく見える外向きイノベーション=父性原理の人が適する。これまで述べてきたように日本人は内向きイノベーション=母性原理に根ざす人が多く、父性原理の人は少数派である。
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しかし、日本の歴史は彗星のように現れた少数派の父性原理の人によって変えられてきたのも事実である。例えば最もわかりやすい人物は織田信長だ。彼は様々な前例を反故にして合理性をもって大胆な変革を行った。鉄砲など合理的戦術の徹底的利用、身分より能力重視の登用、宗教的タブーの棄却、楽市楽座の積極導入といった革新的なことをリーダーシップをもって実行したと言われる。
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豊かな創造力で夢を見、全体や取り巻く環境を考え、前例に沿ってではなく、自分の知識で合理的に判断し、具体的な実現方法を編み出せる。このように自我の確立した人こそ「枠」の設計者にふさわしい。
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「枠」の設計者にもっとも必要な資質は創造力である。創造力のある(クリエイティブな)人は周りから見ると、まるで子供のようだとよく言われる。子供は世間体や前例に束縛されていない自由な存在である。だからこそ子供はクリエイティブなのだ。その自由さが持てる暗黙知を現実世界に拾い上げてくるから強いのだ。子供と大きく異なるのは、具体的な実現方法を描けることだ。広く深い「知識」によって方法論はより精緻なものになる。
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この自由な創造力にあふれ、具体的な実現方法を語れる「枠」の設計者を“コンセプター”とここでは呼んでみたい。類似の言葉に“プロデューサー”や“ビジョナリー”があるが、前者は政治力で実行する方法論だけのイメージが、後者には創造力だけで実現方法を語れないイメージが個人的にあるのでコンセプターという言葉を選んでみた。
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以前雑誌でスイスの時計産業の記事を読んだ。驚いたことにスイスの時計産業には“ウォッチ・コンセプター”という独立した職種が存在するのだそうだ。ウォッチ・コンセプターは実際に時計を作る時計師ではなく、一般的な意味でのデザイナーでもない。時計師やデザイナーが日常のルーチンワークの中で到底考え付かないような革命的な素材の利用やメカニズムを提案するのだ。しかも、その新しい素材を加工する装置の具体的な提示までやってのけるのだそうである。豊かな創造力と実現のための広く深い知識とを併せ持っているのだ。そしてその革新的な提案を大手メーカーに持っていく。大事なのは、ウォッチ・コンセプターはグランド・デザイン、まさに「枠」の提案だけで最終商品までは作らないのである。コンサルティング業に近いように見えるが、もっと革新的に付加価値のコアそのものをクリエイトする職業だと思われる。このウォッチ・コンセプターのような役割が存在し、スイスの時計産業社会で尊敬を集めている(ちなみに彼は経済的にも成功している)ことが、いまでも魅力的で高付加価値な商品を生み出し続け、世界的なブランド力を維持している根源なのではないだろうか?
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