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このパラダイムの変化は、ちょうど家電のデジタル化という技術領域の変化の時期にも符合していた。
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デジタル化が製造業にもたらした大きな変化は3点あるように思う。第一に構造がシンプルになったこと、第二に実現手段の代替が簡単にできるようになったこと、第三に機器の性能差が圧縮したこと、だと思う。
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また、デジタル化によって機能実現手段のほとんどが半導体集積回路に集約できるようになった。半導体はムーアの法則により、集積回路の規模が”18か月ごとに倍”になる。デジタルになった半導体というものは面白いもので、ムーアの法則に従って微細化することは、基本的にいいことばかりなのである(最近はさすがにそれほど単純ではないが)。処理は高速になる、消費電力は下がる、おまけにコストも下がる。これはエンジニアリングの世界では稀なことで、大抵の場合はこちらを立てるとこちらが立たないという二律背反なことが多いのある。そんなわけで半導体は加速度的に高性能になり、デジタル化された機能のほとんどがシリコンの上で実現されてしまうようになった。これによって、複雑な機能を持つデジタル家電製品はどんどん構造がシンプルになっていき、チップをポンと乗せれば高性能な商品ができてしまう時代が来た。
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もう一つの変化はデジタル化がモジュール化を容易にしたということがある。ひとつひとつのサブ機能は単純化され、インターフェイスはオープンなプロトコルにする。これを多くの企業に競わせて価格を下げ、普及させ、次のより高度な技術へとつなげていくループは非常によく働き、システムの低価格化と高機能化を同時に成し遂げた。パーソナルコンピューターの世界は、OS、CPU、DRAM 、ストレージとモジュール化され、得意なベンダーによって進化していったが、成功例だといえよう。
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さて、モジュール化のすごいところは、インターフェイスの先の機能の実現方法がどう変わっても無関係なことだ。例えばストレージ機能の場合、実現方法が、テープだろうが、ディスクだろうが、半導体だろうが、かまわないのだ。PCの世界では磁気記録によるハードディスクからSSD と呼ぶ半導体ストレージに移行が進んでいる。ハードディスクベンダーは同業者だけがコンペチターだったのが、これからは半導体ベンダーも含まれる、といったように、モジュールの世界では、異業種が横から殴りこんでくるのだ。
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ご存知のようにデジタルとは0か1であり、中間がない。性能の高低はフォーマット(規格)で多くが決まるようになったため、価格やメーカーによる差が少なくなってしまった。もう少し言えば、低価格な商品の性能が著しく向上した。それまでのアナログ技術では各社各様のポリシーの元、異なるアプローチでの創意工夫によって「多面的な性能の差異化」を披露していた時代だったのだが、デジタル化によってほとんど消滅してしまったのである。この事実は性能という目標達成を生業にしてきた多くのエンジニアのメンタリティに様々な影響を与えていると思われる。このあたりはまた後で触れたいと思う。
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