2013年1月22日火曜日

第12回 日本人を知る必要性


l         しかし、こうした傾向はグローバルに同条件のはずだ。なぜ複数の日本の電機メーカーは対応できなかったのだろう?日本人のもつエートス(習慣とか特性を意味するギリシャ語)がこの環境への適応を妨げたのか?明治維新や太平洋戦争後に日本人が見せた新しいものへの目覚ましい適応力もまた日本人のもつエートスだったはずだ。わからない。知りたい。筆者はもっと、日本人を知る必要があると思った。

l         ところで、ここまで書いたものを読んだ人から「どうしてそんな日本の製造業ダメダメという悲観的なトーンで書くのだ」「日本の明るい未来をどうして語らないのだ」というコメントをいただいた。筆者はそれを聞いて「これはあの本に書いてあったことなのじゃないのか」と思ってしまった。

l         『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』野中 郁次郎先生の名著で、太平洋戦争で日本軍が負けた際の「戦略的・組織的にだめだったところ」を論じているが、結構普遍性があって身近な会社の中でも思い当たる節もあるので、きっと日本人特有の弱みなのだと思われる。この本が経営書として読まれるゆえんだ。どんなところが駄目だったかというと、こんな具合だ。
  1. あいまいな戦略目的 戦略目的が二重化されたりあいまいだったりしたことで、各部隊の思い込みによる勝手な解釈を生んだ。
  2. 戦略の短期的性格  長期的展望に基づいた戦略立案ができなかった。そのため兵站などが軽視された。
  3. 主観的な戦略策定  ムード、空気で議論が決定される(反対しても無駄だ。。)
  4. 狭くて進化のない戦略オプション  西南戦争・日露戦争での勝ちパターンの聖典視、コンティンジェンシープランの欠如。
  5. アンバランスな技術体系「戦艦大和」「零戦」など技術は優秀だが一品生産。

l         「目の前の現実をロジカルに把握しようとせず、無かったことにしてしまう」「論理性のない情緒的な楽観論が横行する(気合でやればうまくいく)」どうも、目の前の現実を情緒を排してありのままロジカルに理解するという行為がどうも日本人はうまくできないように思える。

l         ちなみに筆者は幼少のころから機械いじりが三度の飯より好きで、そのまま大人になってエンジニアを職業にしてしまったくちだが、「モノづくり」という言葉はあまり好きではない。人が「製造業」と言う代わりに「モノづくり」という言葉を使うとき、次のいずれかを言外に匂わせていることが多いからだ。

1)過去の日本の経済成長を支えた成功体験への誇り
2)日本伝統の美意識をモノに込めるという精神論・情緒的感情

l         目の前が危機的状況なのに、現実を把握しようとせず、このような次元で甘えているうちに勝負に敗れるのが、「失敗の本質」に描かれている日本の典型的負けパターンなのである。

l        「モノづくり」って何時ごろから出てきた言葉なのだろう?と思って調べると1990年代後半から流行り出したようである。意識していないと思うが、日本の製造業に陰りが見えてきたとき、歴史の潮目とまさに時期を同じくしているのが、ある意味象徴的だ。


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