2013年2月17日日曜日

第18回 タテ組織による序列形成


l         1960年代に「タテ構造」という独特のワードを使って日本人論を展開したのが中根千枝氏である。『タテ社会の人間関係』『タテ社会の力学』といった本はすでに古典であるが最近出版される底の浅い日本人論に比べるとずっと説得力にあふれている(これに限らず、日本人論は古典を読むべきだと筆者は思う)。

l         日本を知るために中根氏は「社会構造(Social Structure)」を探求した。日本人はウチとソトを分け、ウチという「場」への帰属を好み、「資格」よりも優先してアイデンティティとすると述べている。日本人が自己紹介のように外に向かって社会に位置づける場合、自分が記者であるとかエンジニアであるとかいう資格よりも「○○テレビの××です」と会社名といった「場」「枠」を前面に押し出す。自分の会社のことを「ウチの」という言い方をする。「場」や「枠」が自己アイデンティティなのだ。

l         この「場」「枠」の内部の連帯感を強化するために構成員の同質性を高めているとも中根氏は指摘している。それが感情的(Emotional)な連帯感だというのである。これは第14回からふれている母性原理そのものではないか!そのため、日本の社会組織は家族のような共同体(Community)になってしまっているという。

l         ドイツの社会学者テンニースが提唱したゲマインシャフト、ゲゼルシャフトという分け方に準ずるなら、会社のように目的がある機能集団であるべきゲゼルシャフトと、家族のように感情的な連帯感でつながるべきゲマインシャフトが、どうも入り混じって分かれてないというのである。ここで思い出してほしいのは、「分ける」のは父性原理で分けないで一体化するのは母性原理であるという点だ。この日本におけるゲゼルシャフトのゲマインシャフト化は組織の戦略的経営がなかなかできない原因として堺屋太一氏も『組織の盛衰』という書物で指摘している。

l         ゲマインシャフトは基本小集団である。なので日本の組織は「5~7人というのは、その成員が遠慮なく自分の意見や感情を開陳でき、相互の協力が効果的に行われ、満足すべき意思決定のプロセスをもつことのできるサイズである」(『タテ社会の力学』 中根千枝)というサイズが基本になる。感情的に構成員を制御するためにはこの規模で無いと無理らしい。大きな組織でも中は小集団に分かれる傾向があるとのことだ、いわゆる「内部派閥」というやつである。

l         この大規模な組織運営に本来向かないゲマインシャフトなのだが、日本人は独自の方法で大規模化を成し遂げたらしい、というのが中根氏のタテ構造の主論になる。日本人は平等主義に裏打ちされた序列構造を持っている。平等と序列はなじまないと思われるが、この序列は例えば国--市町村のような明示的序列で能力差のようなものではない。最も遺憾なく発揮された例が下の図にあるような官僚主導型業界協調体制である。特に戦後、飛躍的に産業界を向上させたこの構造は国の決めた方針が水を流すように産業界全体を制御することができたのだ。「日本人の仕事は、このように組織化された人間を大量に使うが、その『タテ』の連絡のよさ、動員の迅速さにおいて比類がないように思われる」(タテ社会の人間関係(中根千枝))。


l         このタテ構造は上意下達はよく通るが、横のコミュニケーションは希薄なのだそうである。例えば日本の省庁などで○○省と△△省は仲が悪いというようなことがよく言われるが、横の関係の部分は仲が悪いのである。そして、自律分散的組織運営になっているために「長」はあくまでも小集団の長であり、上位組織の長は「他人」ということになる。課長の命令は聞くが、社長の言うことは聞かないという様な事が起きてしまうのだ。

l         このタテ構造は自律分散的組織運営なので上位リーダーが無能でもそれなりに運営されるのが特長だそうである。国家元首が頻繁に交代しても国家が転覆しない秘密はこのことである。

0 件のコメント:

コメントを投稿