2013年3月31日日曜日

第36回 コンセプターを育てる



  • これまで述べてきたように、日本の製造業には高度成長期まではコンセプターよりもリーダーが必要とされた。しかし、いま、時代の潮目が変わり、リーダーよりも「枠」の設計者たるコンセプターが必要になってきている。しかし、人と違っていること、多様性を是とする欧米、特に米国人と異なり、日本人のエートスは人と違った行動をとる異能のコンセプターを排除しようとする。この逆境を生き抜いたコンセプターは日本を何度か変えてきたのも事実であるが、そのような稀な事象に頼ることはもはや時代が待ってくれない。リーダーとともにコンセプターを育てる仕組みが必要だ。
  • 現状の日本の企業には数多くの従業員から未来のリーダーを選別するプロセスをもっており、従業員もリーダーとしてのキャリアパスは認識している。しかし、未来のコンセプターを見出し、育むプロセスは一般的には存在しないし、従業員もまたそれを自覚していない。構造としてコンセプターのキャリアパスを明示的に作ることが喫緊の課題である。
  • まず、第一に必要なのは、経営者が労働集約的な価値観から脱却することが重要である。そして、劉備が諸葛亮を請うたように、コンセプターを重用する姿勢が大事である。また、それが従業員全員から明確にわかることも重要だ。サン・マイクロシステムズのスコット・マクネリーは天才的コンセプターであるビル・ジョイを公式の会社の組織図でだれよりも上に位置づけた。その結果、JAVAなどの新技術が生まれたのだ。
  • その次に大事なのは、軍組織が目的実行する司令官と目的を計画する参謀を分けたように、リーダーとコンセプターの役割をキャリアから分ける必要がある。このふたつの役割は創造力に関係する価値観が正反対であるため、異なるキャリアパスが必要なのだ。参謀には参謀本部があるように、コンセプターの組織を明確に分けるべきであろう。
  • コンセプターの育成はどのようにするべきか?もっとも大事な資質は創造力だが、創造力の燃料ともいえるのが知識である。諸葛亮は膨大な知識をベースに創造力を駆使した。しかも現場の知識を誰よりも知っていたのである。コンセプターも現場の知識が必須なので、これを若い時代に習得させるべきだ。ただし、諸葛が関羽に腕では太刀打ちできないのと同様に、現場の実務能力は低いかもしれないことを含み置かなければならないだろう。
  • 日本の成功した会社のいくつかは、経営者(創業者であるケースが多いように思われる)がこのような異能のコンセプターの価値を十分理解していて活用した例が多く見られる。しかし、会社の世代が替わるとうまくその文化が継承されないことも多いのだ。高度成長期が終わり、コンセプターの存在意義が問われる今、企業の中のシステムとして確立する必要があるのではないか?
  • 根本的には、小中学校時代からリーダーだけでなく、コンセプターの育成を含意した教育をするべきである。前提として、幼い子らが人と違う考え方をした際に肯定で応える、というような多様性の容認は最低限、徹底することが必要だろう。そして、もっと明示的に子供たちの創造力の資質を感知し、その資質を育てる仕組みがあるべきだと思う。これは選び抜かれた資質を問う天才教育ではない。もっと一般的な教育であるべきだろう。




0 件のコメント:

コメントを投稿