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『風土』(和辻 哲郎)や『森林の思考・砂漠の思考』(鈴木
秀夫)にあるように母性原理と農耕文化は結びつきが深いといわれる。母なる大地というが、農耕の豊穣はまさに母性のイメージだろう。さて、農耕文化は土地に根ざすものであるため定住が原則である。土地の所有権はことに重要になる。なので、土地の境界線(枠)は意識して守らなければならないものになる。
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一方の狩猟・遊牧文化はどうか?より多くの収穫を期待するなら、より獲物の多い土地、より牧草の豊かな土地へと移動することが大切である。自分の生活圏という枠を持たない。
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「自然」に対面する姿勢も異なったものになる。農耕民族にとっての自然は豊穣の源、基本は見方。「第13回 「日本の風土」とは?」でも触れたが、時として荒ぶる嵐や火事は定住を基本とする農耕民族にとっては危機は「あきらめて」「じっと身を縮めてやり過ごす」ことが最善である。一方の狩猟・遊牧民族にとっての自然は受容する対象ではなく、対決し、克服する対象となっていく。克服するためには計画的に獲物の裏をかき、罠を仕掛け、陥れるという文化にもなっているらしい。
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『手の文化と足の文化―先端技術ニッポンの謎を探る』(清水 馨八郎)によれば、日本の稲作というのは特殊だと言う。元々熱帯性のイネを北限近い日本で栽培するために、時間に厳格なリズムが醸成されてきたという。4月に田植えをし、10月に稲刈りをする半年間にすべてを凝縮しなければならない。その結果、「日本人は時間に対して特別な意識をもつ時間民族に成長」し、せかせかして、時間に細かく、鉄道は時間通りに発着する、という文化になったのだそうである。また、日本における稲作と言うものは、手間を掛ければそれだけ収穫高が上がるという性質を持っており、それが勤勉な文化を作ったのだという。
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まとめると、欧米の狩猟・遊牧文化は「枠」の外へ広がっていく傾向を持つのに対して、日本の稲作・農耕文化は「枠」の中に閉じてその中で時間に細かく、勤勉に努力する特色を持っていると言えるようだ。
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